1.はじめに
途上国において国際歯科保健医療協力を展開するときさまたげとなるのは環境の相違である。日本と比べ保健医療の普及状況、医療制度や住民の口腔疾患罹患状況、言語の違い、健康観の相違、経済状況の違いなど多くの問題が存在する。文化の相違とも言えるが、貧困が大きな要因の一つである。保健医療は人を対象とした領域であるだけに文化的な相違や貧困は健康プロジェクトに大きな影響を与える。
筆者は途上国の一つであるネパールにおいて歯科保健医療協力を行ってきた1)。その経験から得た事柄を中心として目標に基づく保健医療プロジェクトの展開について報告したい。
2.目標
途上国で歯科保健医療開発を実施するには、まず目標設定が必要である。目標は援助を受け入れる途上国側の状況や協力を実施する側の資源や経験や能力などにより異なってくる。
目標には、1)理想や希望を規範とした最高概念としての目標、すなわち遠い目標または理念、2)明確に実現できるとは思えないが努力次第では到達可能な目標すなわち少し先にある目標、3)実現可能で手の届く目標など3段階的に分けて設定するとプロジェクトの遂行が容易になる。
初めてプロジェクトを行うとき、実現不可能な高い目標を実現可能な目標と誤って掲げて現場にでかけ、現地の政府関係者やカウンターパートに理想論を持ちかけても相手にされず適当に玩ばれて現場でセレモニーだけ行って帰国したミッションも少なくない。
身の丈に応じた自分の実力の範囲でとりあえず現場に立って地域住民と顔の見える関係を持つことからはじめることが必要ではないだろうか。
目標設定を行うには、3つの目標を使い分け、とくに第3の実現可能な目標については現地の状況を分析し対応策を立案する必要がある。しかし、途上国の歯科保健状況についての情報は少ない場合が多い。従って、初期のプロジェクトにおいては現場の状況を調査することを目標とすることはリーズナブルな事業であると言えよう。
このような経験を積むと現地の状況も把握でき4)、現地のニーズなどを背景にした現実的分析に基づく保健医療プランを企画することが出来る。プロジェクトは創造的段階に入り楽しい展開となる。初期段階で実現不可能に見えた遠くの目標が手にはいるようになるが、同時に新たなる遠い目標が雲のように湧いてくる。そこで新たなる戦いが始まるが、これが国際協力の醍醐味でもあると言えよう。
3.資源の有効活用と効果(メディカルケアーとヘルスケアーを比較)
具体的な目標が定まるとあとは自動的に、プロジェクト計画を立案し、現地に赴き事業を行い、事業結果に関する評価作業を実施する2,3)。
評価は目標を達成できたか、達成出来なかった事柄については失敗の原因は何かを分析し対応策を模索しなければならない。このPLAN-DO-SEEを繰り返すことによりプロジェクトは目標を高めることができる。
国際保健医療協力は人間の健康と病気に関わるプロジェクトであるので、実行するにはそれなりの運営を講じなければならない。それには資源の有効活用が有効である。資源とは人・物・金・情報を指す。
図1に筆者が加わったネパール歯科医療協力会の第15回ミッション(2001年12月〜2002年1月)での実施プロジェクトをメディカルケアーとヘルスケアーに分け投下した資源を人・物・金・情報について数値化したものと、診療やヘルスケアーを行った村人の数をプロジェクトの結果として対象数で求めた。棒グラフの白はメディカルケアーをグレーはヘルスケアーを示している。資源として「情報」は15次隊の計画書と報告書のそれぞれの頁数を、「人」は日本人隊員と現地スタッフのプロジェクトに加わった延べ人数を、「金」は15次隊で購入したそれぞれの金額を、「物」は15次隊で日本から搬入した機材及び現地デポ機材の品目数を当てた。プロジェクトへの投下資源はメディカルケアーは「物」と「金」が多く、ヘルスケアーは「情報」と「現地スタッフの数」が多い、これに対し「日本人隊員」は双方同等な人数を示している。しかし、「効果(対象者数)」をみるとヘルスケアーの方がメディカルケアーより効果が高いことがわかる。この図から人・物・金・情報の資源を一つに指数として計算し効果と比較したものを図2に示す。投下資源はメディカルケアーもヘルスケアーもほぼ等しいが、効果は86:14とヘルスケアーがメディカルケアーに比べ著しく高いことがわかる。自立を目的とした健康プロジェクトの推進が好ましい事がわかる。
これらの投下資源について過去15回のミッションの経験から言えば、人のファクターが最も大切であると言える。プロジェクトの目標を経験を重ねることに高めるのも参加する専門家により決定するし、現地の自立型プロジェクトを進めるにも現地オーラルヘルスワーカーの働きによることが分かった。
4.まとめ
国際歯科保健医療協力を進めるには、目標に従って計画を立案し実行する。その結果について冷静な評価を行うとプロジェクトはより高い目標に向かい進む。この目標から評価までをシステムとして組み立て推進するには資源の有効活用が必須であるがその中でも人の役割が大きい。すなわち国際歯科保健医療協力の展開は人により決まる。
文献
1)中村修一:世界の中の健康,健康社会学研究 1(1),56-58,2000.
2)中村修一:健康プロジェクトの計画・実行・評価について-ネパールにおける歯科保健医療協力の現場から考える-:ヘルスサイエンス・ヘルスケアー 1(1),9-13,2001.
3)小宮愛恵、深井穫博、中村修一ほか:ネパールにおける口腔保健専門家の養成プロジェクトに対する評価、九州歯会誌 5(4)152-161,2002.
4)奥野ひろみ、中村修一、小山修、深井穫博、安部一紀、小川孝雄、蒲池世史郎:カトマンズ近郊農村における10代若者の疾病罹患状況と対処行動、 九州歯会誌 56(1)27-32 , 2002