NPO法人Well-Beingにおける地方自治体支援の役割と問題点



NPO法人ウェルビーイング
常務理事 中村譲治


はじめに
 特定非営利活動促進法が施行され3年が経過した。現在までに認証されたNPO法人の内約6割が保健・医療又は福祉の増進を図る活動を定款に掲げている。国民生活審議会総合企画部会の報告書では21世紀の社会ではNPOは行政や企業と並ぶ第三の主体として重要性を増していくことを予測している1)。
 このような時代の流れの中でヘルスプロモーションの展開におけるNPO法人の役割は少なくないと思われる。ここではNPO法人Well-Beingの活動を紹介し、ヘルスプロモーションの展開におけるNPO法人の役割と問題点を検討する。また保健所や大学との連携についても述べてみたい。

NPO法人Well-Beingの概要
 NPO法人Well-Beingは1973年より27年間任意の団体として主に歯科保健に関する活動をしてきたが2000年にNPO法人として登録認可された。活動内容は以下に示すように多岐に渡っており、サービス提供型NPOと政策提言型NPOの両面の性格を有している。
1. 地方自治体の健康政策の立案・実施・評価の支援 
2. 幼稚園、保育園、学校の歯科保健事業
3. 企業における歯科保健事業
4. 健康教育の媒体等の開発販売
5. 臨床予防歯科システムの開発と普及
6. 予防歯科、MIDORIモデル等の研修による人材育成事業
7. 予防歯科およびヘルスプロモーションに関する研究と発表
8.機関誌およびホームページによる情報公開
 当法人の会員数は現在約280名で年々20名ほど増加している。活動範囲は九州から東北地方まで全国にまたがっている。財政規模は2001年度の時点では約4500万円で、収入の内訳は独自事業収入が51%、行政からの委託事業収入が23%であり会費収入は10%と低い。独自収入が多く会費の依存度は低い一方で年々行政からの委託事業収入の割合が増加している2)。
 事務局のマンパワーは常勤の事務職1名、研究員4名(常勤2名、非常勤2名)、歯科衛生士2名(週2日)である。このほか随時必要に応じて会員が無償で会の活動に参加している。
 運営は定款に基づき総会(年1回)、理事会(月1回)、事務局運営会議(月1回)、セミナー(週1回)により協議、決定されたことを受け事務局を中心に会員と共に実務的な作業を進めている。

地方自治体の支援に関する活動内容
 当法人は法人設立前の1993年より現在に至るまで地方自治体の健康政策の策定・実施・評価の支援に関わってきた。その内容は乳歯う蝕対策、成人女性歯周病対策、健康日本21地方計画、母子保健関連、医療費対策、高齢者支援ボランティアグループの育成、元気なまちづくり、糖尿病予防教室見直し、障害者プラン策定、痴呆予防、個別健康教育計画策定と多岐に渡っている。市町村とは契約を取り交わし、支援を行っている。支援の期間は複数年に渡ることがほとんどである。
 このほかに随時、他市町村からのメール、ファックス、電話による問い合わせに対して助言や情報の提供を行っている。また保健所や市町村の依頼に応じてヘルスプロモーションやMIDORIモデルに関する講演、演習を実施している。
 地域支援にあたってはヘルスプロモーションの理念の基にMIDORIモデル( PRISEDE-PROSEED model)を応用している。すべての政策策定および推進のプロセスに住民が参加することを前提にしている。また計画の策定・実施・評価のプロセスで政策スタッフがヘルスプロモーションの展開のための力量形成ができエンパワーメントすることをNPO法人としての最終の目的としている。
 本年度の支援対象団体数は17市町村、2保健所、1企業であり、契約自治体数は年々増加している。具体的な支援は対象やテーマによって異なるが健康政策の策定では以下のような流れで行っている。
・ 計画策定から推進までの工程表の作成と提案
・ 庁内策定スタッフに対するヘルスプロモーションとMIDORIモデルの研修
・ 計画策定のための体制づくりに関する提言
・ 計画の策定の段階で必要な様々な社会調査と分析に関する研修と実施の支援
・ 既存の疫学データの見方と利用法の指導
・ 計画策定のための住民組織および庁内組織の立ち上げと人選に関するアドバイス
・ 質問紙調査の手法と開発に関する支援
・ 質問紙調査から得られた情報処理の方法の指導と支援
・ MIDORIモデルの各段階の診断手法の指導と支援
・ 診断の各段階の決定プロセスで住民と共に行うグループワークの指導と支援
・ 健康教育プログラムの開発に必要な理論に関する研修と開発の支援
・ 健康教育の実施指導
・ 計画策定後の推進体制づくりに関する提案とその支援
・ 計画全体の実施に関する工程管理の支援
・ 評価プログラムのデザイン作成の指導と実施に対するアドバイス
・ 以上のプロセスを通じての策定スタッフに対するファシリテーターとしての力量形成

地方自治体の支援におけるNPOの役割と問題点
 前述した支援内容はNPOの大きな役割と考えられるが実はそれと同じ位、重要な役割がある。それは担当保健師のメンタル面からのサポートである。市町村の保健師にとって住民参加のもとに計画策定を行うことは初めての経験であることがほとんどである。また今まで計画策定を業者に丸投げの形で依頼していたケースも多く見うけられる。
 このような状況に置かれていた保健師が健康政策の策定を担当する際に起こる精神的な負担や不安を常に察知しそれに対してきめ細かな対応を行うことが必要となる。不安の解消のためにグループワークや作業後に必ず反省会を実施し、必要に応じ「振り返りシート」に記入してもらっている。これらの内容から不安な点を把握しそれに対する的確なアドバイスを行っている。また電話、メールのやりとりを頻繁に行い、励ましや的確な情報の提供も欠かせない3)。
 もう一つの役割として内部の発言からでは動きにくい事に関して外部者としてのNPOが外からの風を庁内に吹き込む役割である。同じ事を担当保健師が上司に訴えても理解してもらえないことでも、営利を目的としないNPOの立場からの提言で納得してもらうことが往々にしてある。
 行政の活動は法律・予算に基づくことが条件となっており、安定的なサービスの提供は行えるが公平・公正性を重視するために画一的なものになりがちである。一方コンサル企業は様々なニーズに対応できる機動力を有するが収益が上がることが前提条件であり採算の合わないニーズには対応できない。大学は採算性の問題はないものの研究業績につなげる必要がありデータの解析までがおもな仕事となってしまう傾向があり、ニーズに充分に答えられていない場合が多いと思われる。
 NPOの活動は行政や企業の持つこれらの制約が少ないため様々な活動を柔軟かつ機動的に展開することが可能である。すなわち多元的・先駆的で敏速に人間的な対応ができ、独立性を保っていることがNPOの理想的な条件であると考えられる。
 当法人の活動は概要で述べたように多元的である。また活動のツールとして近年注目を浴びているMIDORIモデル(PRECEDE-PROCEED Model)をいち早く取り入れ先駆的な活動を行ってきた。また短絡的に考えればコストパフォーマンスが決して高いとはいえないOJT(On the Job Training)を活動の方針としている。一つの課題を解決する過程を現場のスタッフと共有しながら人間的な関わりを重視しスタッフの力量形成を図っている。この点も効率を重視する企業や、単年度予算の枠で早く結果を出すことが要求される保健所では採用しがたい手法であると考えられる。
 一方、NPOが抱えている問題点も多々ある。専門知識を持つ人材の不足と共に人材を養成するシステムが整備されていない。ヘルスプロモーターの力量形成には現場に足を運び経験を積み重ねることが必要である。そのため育成に時間がかかる点である。今後、大学や研究機関と連携し即戦力のある人材育成のためにインターン制度の活用などの対応が必要であろう。
 また税制も含めた財政基盤の脆弱性という問題もある。前述したように当法人では行政からの委託事業収入が23%を占めているが、これは今後ますます大きくなることが予想される。しかしながら、このことは一方では市町村に支給される国の補助金に依存していることを意味する。補助金や単独の予算を獲得できない市町村の健康政策担当者への支援活動のためにNPOが各種団体からの資金的援助を得るための取り組みも必要と思われる。しかしNPO法人の優遇税制の道は開かれたものの、現状では認可の条件が厳しく、その資格の取得は非常に困難である。
 最後に活動の客観的な評価の困難性である。行政や大学などの研究機関は事業や研究を評価するためのチェック機能がそれなりにある。また近年アカウンタビリティーの要求も高まっている。これに対しNPOは監督官庁に対する会計と事業の報告義務はあるものの活動の評価機能が充分に整備されていない。自己評価も含め外部からの評価システムの整備が必要と思われる4)。

NPOと保健所および研究機関との連携
 今後、NPOと保健所および研究機関との連携は必要不可欠なものになると考えられる。現在、当法人が支援を行っている市町村で保健所と直接連携を取って活動を行っている地域が4カ所ある。その内のふたつの事例は保健所長が自ら町村の補助金獲得の段階から支援し、手を挙げた市町村に当法人を引き合わせ、支援の引き渡しをしたケースである。この場合、保健所のスタッフを担当として市町村に張り付けさせ、彼らのファシリテーターとしての力量形成にねらいを置いている。
 残りのふたつは保健所の保健師が管内の町村の担当者に対するヘルスプロモーションに関する研修会を企画し、当法人がそれを担当した。その後、管内の全町村もしくは希望の市町村の計画策定の支援に保健所保健師があたり、その後方支援をこちらが行っている事例である。この場合も町村の支援と共に保健所の担当保健師の力量形成を視野に置いた支援となっている。
 これらの4つ事例では保健所が市町村に対してお膳立てをし、その後の支援をNPOが引き継ぎノウハウを保健所職員が吸収するという図式である。ただ残念なことはこのような事例は全体の一割程度でありほとんどの市町村では保健所長の顔すら見たことがないというのが実情である。また保健所の担当スタッフの場合、数年経てば移動しなければならないという宿命があり結果評価まで見届けることは難しい。現実的には市町村スタッフには力量形成ができても保健所スタッフにはそれを期待しにくいという問題がある。
 次に大学の連携について述べる。当法人は幾つかの大学の医学部、看護学部の学生へのヘルスプロモーションに関する講義を行っている。研究の対象として地域を捉えるのではなく、実践の場としての視点から地域保健活動のあり方を学生に伝えることはNPOの重要な役割であると考えられる。
 大学の研究とNPOの地域支援をうまくコラボレートしお互いに満足できる結果を出すことが望ましい。しかし実際の現場では評価に耐えうるだけのしっかりした研究デザインによる介入は、特に定量研究の場合困難なことが多い。
 一方ヘルスプロモーションの展開において質的研究や調査の重要性が指摘されている。大学の機能と、NPOの機能を持ち寄り質的研究と調査の手法の開発と支援を目的としたコラボレーションセンターの設立に向けその可能性を検討している。今後、大学等の研究機関とNPOとの連携の可能性は高くなると予想している。

文献
1)内閣府国民生活局市民活動促進課:「中間支援組織の現状と課題に関する調査報告」
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/npo/report/020628chukan-s.html、2002
2)中村譲治、他:ヘルスプロモーションの展開におけるNPO法人の役割と問題点、健康教育学会誌、9:272−273、2001
3)岩井梢、他:「健康日本21」地方計画の策定プロセス、健康教育学会誌、10:152−153、2002
4)内閣府国民生活局市民活動促進課:「市民活動団体の評価に関する調査」 http://www5.cao.go.jp/seikatsu/2001/0618shiminkatsudou-hyouka/main.html、2001





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