IT革命は地域歯科保健に貢献できるか?



安藤雄一
国立保健医療科学院・口腔保健部


はじめに
 世はIT(Information Technology)革命。世間はともあれ、我が身を振り返ると、いつの間にかEメールが重要なコミュニケーション・ツールとなっているし、メーリングリストやグループウェアによる小組織の運営が当たり前のようになってきた。
 IT革命の真髄は、個人と小組織・中央と地方などにおける情報較差が縮小することにあるという1)。  たしかに筆者が加入しているメーリングリストにおける議論などをみても、かつて存在していた大学と開業医の情報較差が確実に縮まってきていることを実感する。IT革命は着々と進行中なのであろう。
 さて、本稿では、このIT革命が、地域歯科保健にどこまで影響するかという点を考えてみたい。  私事で恐縮だが、現在、8020推進財団のホームページの作成作業に関与しており、様々な思いを巡らせながら、準備を重ねているところである(深井先生にも御協力いただいている)。これが成功するかどうかは未知数であるが、臨床研究が出版バイアスを防ぐために事前に研究計画(プロトコール)を登録する方向に変化しつつあるという時代の趨勢に習い、いま考えていることを述べることにする。

地域歯科保健の現状と8020推進財団ホームページ拡張計画

 わが国における地域歯科保健の現状をみると、かつての姿に比べ、活気づいてきている感がある。
 各地域で発行された冊子類(調査報告書、マニュアル類など)に、キラリと光るものが多くなってきた。出版業界もこれに目をつけ、地域で作成された冊子の原型を出版社が編集して刊行する、という動きも出てきた2-6)。情報の発信源は地方にシフトしつつあるのかもしれない。
 しかし、その多くは、従来型の「紙媒体」による伝達手段を主としているため、その多くが出版流通システムに乗っていない。全国の多くの人々の目に止まるという状況には至っていないようである。
 いま取り組んでいる8020推進財団のホームページ拡張計画では、各地域で蓄えられ発信されている情報を系統的に発信し、全体の取り組みを加速化させることを意図している。
 主要なターゲット集団は、行政・歯科医師会などの地域歯科保健従事者である。これらの人たちに対して、歯科保健に関する様々な数値データ・法令・事例・スライドなど保健教育媒体・ガイドラインの紹介・調査研究報告集、等の情報を提供していく予定である。
 ただし、情報提供だけでなく、利用者から情報を提供してもらえるようなシステムをつくる予定である。これにより、とくに積極的な仕掛けを行わなくても様々な情報を収集でき、直ちに多くの人たちがこれを利用できるという、双方向のコミュニケーションが可能となる。
 情報を集める際には、「集める」だけではなく、「集まる」仕組みを意識することも必要である。情報の提供者は一方では消費者でもある。多くの人は単に一方的に情報を提供することに喜びを感じない。“Give & Take”の法則は、情報収集と提供の場合も存在する。本ホームページが、この実現装置として機能すれば、地域歯科保健の活性化に寄与できる可能性は十分考えられる。もしかしたら、組織運営のあり方にも少なからず影響を与えるかもしれない。8020推進財団のように、いい意味で中心軸がはっきりしない組織には、ホームページに求心力を求めるという手段が向いているのかもしれない。

ITの持つ負の側面

 今まで、IT革命のバラ色の部分だけを述べてきたが、言うまでもなく、ITにも負の部分はある。  IT革命は情報発信の限界コストの大幅に低下をもたらすが、このことは同時にジャンク情報(ゴミ情報)の増加をもたらす。その代表例がフッ化物応用である。反対組織が発信する情報は全世界を駆けめぐり、反対運動は世界的規模で動くようになってきた7)。
 ジャンク情報の増加は、避けられないであろう。いくら情報網が発達したとしても誤情報がなくなるわけがない。まして、誰でも気軽に世界に向けて発信可能な環境が整備されてきているのであるから、意図的にこのような行動に出る人がいたとしてもまったく不思議ではない。
 したがって、信頼できる情報を発信し続けることが極めて重要になる。情報所有の「較差」を縮め、かつその弊害から避けるためには、情報の「格差」を意識し、格付けの高い情報を整理・提供しなければならない。これがない場合、IT革命は単に情報のゴミ箱を生むの装置と化してしまう危険性もある。

   このことは、昨今注目を集めつつある住民参加による保健活動にも当てはまる。個々の対策のエビデンスなど、情報インフラが整備されていないと、予想される結末は、やや誇張すれば、好き勝手言い放題の状況であろう。これからは、本来求められているEBM(EBH)のあり方を追求し、ヘルスプロモーションと融合していくようなかたちが必要になると思われる。

おわりに

 昨今の社会環境から、歯科保健の分野においても、今後、ITを無視した展開はあり得ないと思われる。  しかし、その方法論については、まだ答はない。試行錯誤を繰り返しつつ、走りながら考えていくしかないのであろう。

文献
1)野口悠紀夫:インターネット「超」活用法2001、講談社、東京、2001.
2)静岡県歯科医師会:口腔ケア文献集、−科学的根拠を求めて−、静岡県歯科医師会、静岡市、1999.
3)日本歯科医師会監修、静岡県歯科医師会編:EBMに基づいた口腔ケアのために 必読文献集、医歯薬出版、東京、2002.
4)旭川市歯科医師会、北海道子供の歯を守る会、上川中部地域歯科保健推進協議会:21世紀の8020戦略 水道水フッ素化の歩み、2000.
5)花田信弘ほか編:新しい時代のフッ化物応用と健康 8020達成をめざして、医歯薬出版、東京、2002.
6)福岡予防歯科研究会編:明日からできる 診療室での予防歯科、医歯薬出版、東京、1998.
7)Vered Y, Sgan-Cohen HD:The fight over water fluoridation in Israel--potential modes of action in light of the "American experience", J Public Health Dent, 62(2): 67-69, 2002.





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