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生活習慣病と歯の健康


深井穫博 
(深井歯科医院・深井保健科学研究所)

生活習慣病と歯の健康
 平成20年4月から、医療保険に加入している40~74歳の成人約5,600万人を対象に「特定健診・特定保健指導」が始まりました。メタボリック・シンドローム(内臓肥満症候群:肥満症、糖尿病、高血圧症、高脂血症およびこの予備軍)を改善し、予防するために、運動習慣や食事などに関する保健指導を効果的に行うための健診です。これまでの健診の考え方は、どちらかというと疾病を早期発見・早期治療という「二次予防」に力点を置いていたのに対して、効果的な保健指導によって疾病の発生を予防する「一次予防」が重視されています。  実際の糖尿病の有病者は、約740万人、高血圧症3100万人、高脂血症3000万人といわれ、これらのうちいずれか二つを有する者は国民の約28%と試算されています。これらは、虚血性心疾患や脳卒中の発症リスクが高い生活習慣病の代表的なものとされています。歯周病は、糖尿病の第6番目の合併症とされ、糖尿病に罹っている人は歯周病のリスクが高く、それだけ歯を失いやすいので、注意が必要です。また、歯周病と肥満症、咀嚼と肥満との間に関連があることが報告されており、厚労省の作成した特定保健指導の教材集のなかにも「歯の健康」の項目が取り上げられています。さらには、この保健指導は、その必要性の程度で、3つのグループに分けられますが、「積極的支援」と呼ばれる3ヶ月間のフォローアップを担当する者の一員として、一定の研修を受けた歯科医師・歯科衛生士が位置づけられています。

ライフスタイルと健康
 昭和20年代までは結核が国民病と言われ、わが国の死因の第一位でした。昭和30年に入ると、結核に代わり、脳卒中、心臓病、悪性腫瘍が三大死因となりました。そこで、政府は昭和31年(1956年)に「成人病」という用語を提案し、平成8年(1996年)には、これを「生活習慣病」として、その発生予防に力を注いできています。生活習慣と健康との関係については、ブレスローらが1960年代から行っている有名なコホート研究があります。彼らはカルフォルニヤのアラメダで、約7000名を対象にして生活習慣の健康に及ぼす影響を検討しました。その結果、7つの項目のうち多くを実行している者ほど生命予後が高いことが明らかになり(表1)、健康づくりに、治療だけなく、日常的な保健行動を中心としたライフスタイルが重要になっていることが強調されるようになりました。この「7つの健康習慣」とは、①適正な睡眠時間(7�8時間)をとる、②喫煙をしない、③適正体重を維持する、④過度の飲酒をしない、⑤定期的にかなり激しいスポーツをする、⑥朝食を毎日食べる、⑦間食をしない、というものです。
 疾病の治療には、医療者の手を借りなければなりませんが、ライフスタイルは、一人ひとりが取り組めるものであり、医療者を始め健康づくりの専門家に求められる役割として、健康的な行動変容を支援する保健指導が注目されているのです。

行動変容におけるモチベーションの重要性
 モチベーション(動機づけ)という用語は、健康の分野だけでなく、日常的に広く使われるものですが、行動変容の鍵概念となっていて、これには「外発的モチベーション」と「内発的モチベーション」があります。前者は、1900年代に入ってからのワトソンやスキナーらの「(新)行動主義」心理学や、パブロフの条件反射の実験を端緒として、行動を一定の刺激に対する反応と捉える考え方に基づくものです。それに対して、1960年代になると、行動が変容するには、本人の「やる気」が重要であるので、これを「内発的モチベーション」として区別するようになりました。その契機のひとつは、米国のデシらの大学生を被験者としたパズル(ソマ)の実験であり、外からの報酬を伴わせることで、モチベーションがかえって下がってしまうという現象(アンダーマイニング効果)でした。この現象から、デシらは、行動の自己決定の重要性について「自己決定理論」として理論構築を図っています。そして現在では、この「外発的モチベーション」をきっかけとして、「内発的モチベーション」に移行する過程も次第に明らかになってきており、成人を中心とした保健指導の技法に活かされるようになってきました。

8020と健康習慣
 平成元年に提唱された「8020運動」は、今年で20年目を迎えています。厚労省歯科疾患実態調査をみても、国民の歯の保有状況は、この間、大きく改善してきています。例えば、55歳から59歳の成人で20歯以上の歯を有する者の割合は、今から30年前の1975年には43%であったのに対して、2005年の調査では、82%にまで改善されてきています。この年代の方々が、80歳を迎える20年後には、「8020」はかなり現実的なものとなっていることが予測されます。
 歯の健康は、食事や歯口清掃、予防的な歯科受診など、その人の行動に左右される点が多く、「8020達成型社会」をより現実のものとするためには、「内発的モチベーション」を喚起する保健指導に果たす医療者の役割が益々高まり、住民の主体性と自己決定を中心とした運動展開が求められています。

「深井穫博:生活習慣病と歯の健康,母推さん,No.166,12-13,2008年5月」を一部改変



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