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臨床における意思決定と患者の参加


深井穫博
(深井保健科学研究所)

患者と歯科医師のエンカウンター
 口腔病(oral disease)ともよばれる歯科疾患は、う蝕と歯周病に代表されるが、これらは生涯を通して発病することが多いので、慢性疾患あるいは生活習慣病としての自覚が弱いか、一種のあきらめの態度に陥りやすい。歯科受診・受療行動は、成人期におけるヘルスプロモーションの重要な要素となる。しかし歯科を受診することは、人々にとってできれば敬遠したいことであり、この「あきらめ」や消極的な対処としての受診を、どの程度まで積極的な行動に転換できるのかということが保健医療者の課題となっている。
 歯科受診・受療行動は、医療機関の選択と、患者と医療者との出会いのコミュニケーションから始まる。しかし、わが国の医療制度では、医療機関に関する情報はきわめて限定的なものである。そのため多くの一般啓発書のなかで、医師や医療機関を選択する基準が紹介されている。例えば、①話をよく聞いてくれる、②わかりやすい言葉でわかりやすく説明してくれる、③薬や検査よりも生活指導を重視する、④必要な時は専門医を紹介してくれる、⑤患者の痛みやつらさ、悲しみを理解し、共感してくれる、などがあげられている1)。あるいは、欧州8カ国3,580名の患者を対象に、一般医(GP)に対する患者のプライオリティを調査した報告をみると、「コンサルテーションの間に、患者の話をよく聞いて十分な時間をかけて説明してくれる」ことが、治療技術に対する信頼性や緊急時の対応などに較べて第1の優先度として求められていた2)。医療制度やコミュニケーンに関する国民性を超えて、いずれも「よく聴き、わかりやすい説明」を患者が重視することは、医療のなかで患者がおかれている立場をあらわしているものであろう。
 この患者の立場に焦点をあてた医療を、「患者中心の医療(patient centered approach)」と呼ぶことがある。「患者のためでない医療」はありえないので、医療者には奇異な表現とも考えられるが、その医療機関の個別的な理由で、「患者中心」を軽視してしまう場合や、その度合いが個々の医療者で異なるために、自己修正のための警鐘ととらえることができる。しかしさらに重要なことは、この「患者中心性」について、医療者ではなく患者側が判断することであり、そのためのわかりやすい指標を専門家が提示することに意味があるのだろう。Littleは、①患者の疾患(disease)と病い(illness)両面への指向性、②患者の人間性への理解と共感、③患者と医療者とのパートナーシップ、④ヘルスプロモーション・予防の重視、⑤患者・医師関係の向上、の5項目を「患者中心」の度合いを判断する要素としている3)。

臨床における意思決定の共有とは
 臨床における意思決定は、①診断、②治療内容の決定、③予後の判定とメインテナンス、にかかわる場面のなかで行われる。これらは、科学的根拠、歯科医師の臨床経験と治療技術、患者の選好に基づいて歯科医師が主体となって行われる。この意思決定の過程で、「患者の参加」をどのようにして図っていくかといことが、患者の権利と医療に対するポジティブな態度の啓発のために求められている。すなわち、「診断」の場面における患者への傾聴、「治療内容の決定」の際の相互作用(interaction)と患者選好の適用、そして「予後判定」における患者の満足度や口腔保健関連QOLなどの主観的評価の導入によって促進される「意思決定の共有」である。  ところで、医療者の「説明」に対する患者の反応には、言語的なもの(verbal communication)と表情やうなずきなどの非言語的なもの(non-verbal communication)とがあり、医療者は、患者の非言語的コミュニケーションから、その理解や納得の度合いを推し量る場合が多い。しかし時には、患者からの意見や質問が活発に表現されることがある。質問は、いわゆる情報探索行動の一種であり、患者の参加度を測るひとつの指標となる。「主張すること」と「察すること」のいずれを強調するかという文化的背景はあるが、オランダでの患者の質問の頻度に関する調査をみると、患者の自分の行動や歯科医師の行動に対する満足度は、質問後の歯科医師のコミュニケーション行動に左右されていたと報告されている4)(表1)。患者の質問とそれに対する歯科医師の応答による双方向のコミュニケーションの重要性を指摘したものである。
 あるいは、患者がどの程度、意思決定に関わりたいと考えているかについては、その内容や場面で異なるものであろう。例えば、患者と医師の意思決定の場面での役割について病院と一般診療所に通院する患者を対象とした英国での調査結果をみると、患者が最も求めるのは、「医師と患者共同」であり、必ずしも全てを「患者主体」でと考えているわけではない。しかし、実際の場面では、ほとんどが「医師主体」で決定されているという認識をもっていた(図1)5)。これは、患者の希望する程度までの「参加」が、図られていない実態を示している。

患者の参加を支援するシステム
 意思決定の共有には、「情報の共有」が前提となる。そのためには、患者が話しやすい雰囲気と「何を質問してよいかがわからない」という状態を解消するためのわかりやすい情報の提供が必要になる。この患者の「参加」を阻害する要素には、①患者の情報を歯科医師が知らない、②歯科医師の情報を患者が知らない、③情報提供に関する葛藤、④治療のリスクや受診に関わる負担感の相違、などがある。いくら「わかりやすい説明」であっても、それが患者の求めている情報に合致していなければ、一方向のコミュニケーションに陥ることになる。一般的に患者が求めている情報として、(1)問題は何か、(2)私一人の問題か、(3)他の治療方法、(4)予後、⑤治療の副作用とリスク、⑥通院、治療期間、⑦家でできること、⑧今後の予防に関する留意点などが指摘されている6)。
 これらを考慮して、個々の歯科医師が、患者の「参加」と「決定」を支援するシステムが求められている。患者とのパートナーシップの構築、患者の求める情報に対する理解、意思決定に関する患者の選好の理解、患者の心配や期待を明確にすることなどが、「意思決定の共有」のためのステップとなるだろう。

文献
1. 鎌田實:病院なんか嫌いだ-「良医」にめぐりあうための10箇条,集英社,東京,2003
2. Grol R, Wensing M, Mainz J, Ferreira P, Hearnshaw H, Hjortdahl P, Olesenn F, Ribacke M, Spencer T and Szecsenyi J: Patientsユ priorities with respect to general practice care: an international comparison, Family Practice,16,4-11,1999
3. Little P, Everitt H, Wikkiamson I, Warner G, Moore M, Gould C, Ferrier K, Payne S: Preferences of patients for patient centered approach to consultation in primary care: observational study, BMJ, 322,468-72:2001
4. Schouten BC, Eijkman MAJ, Hoogstraten J: Dentistsユ and patientsユ communicative behaviour and their satisfaction with the dental encounter, Community Dental Health, 20,11-15:2003
5. Chapple H, Shah S, Caress A-L, Kay EJ: Exploring dental patientsユ preferred roles in treatment decision-making-a novel approach, British Dental Journal, 194,321-327:2003
6. Coulter A, Entwistle V, Gilbert D: Sharing decisions with patients: is the information good enough?, BMJ, 31,318-22:1999
(The Quintessence, 23(3),728-729,2004.)



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